#10 価格表示

2013.11.14

 お向かいのきょうだいが家の前の道ばたでお店屋さんごっこをしていて、あらなんてかわいらしいんでしょうとおじさんほこほことした気持ちになっていたところ「0円です」というセリフが聞こえておじさん思わず振り向いて目ん玉ひんむいてしまった次第である。

 幼児、そして小学校低学年の児童が「0円で売る」という概念をどうして理解することができているのか。数学が苦手科目だったのを棚に上げて偉そうに言うけれど、むしろ数学が苦手科目だったからこそ言うけれど、ゼロは自然数ではない。子どもがフツーに生きてきて出会う数字ではない。「マイナスを足す」みたいなことと同じで、数学的な世界の言い回しだと思うのだ。そりゃあ小学校に上がって算数を習えば「0」は出てくる。でも、その概念を理解し、使いこなせることとは意味が異なる。あの家には「0の発見」的な、大昔のインドのような劇的な発見があったというのだろうか?

 大げさに考えた後で、思った。最近は「通話料0円」とかなんとか、僕らが幼かった頃にはほとんどなかった広告表現があふれているではないか。いや、ほんとのところどうなのか、よそのおうちの事情はわからないけれども、きっと、つまりはそういうことなのだ。子どもの数学教育にとって、いいんだか、なんなんだか。

 値段というものが、わかりにくい。「わかりにくさ」が、どんどんわかりやすくなっている。とりわけ携帯電話やインターネットといった通信系の費用に関しては、べらぼうにわかりにくい。仕事柄なんとか理解しなければならないときを除けば、正直もう理解を諦めてすらいる。最近よくある「実質負担金いくらいくら」とか。法律的にクリアしなければならないこととかあるんだろうけど、どうしてそうなってしまうのかと高度に発達した現代社会を呪いたくなる。こちらの思考能力はそこまで発達していないのだから。この前、とある家電量販店で営業トークを聞かざるをえない機会があったのだけれど、あっち足してこっち引いて掛けちゃって割っちゃって、なんだか数字をいじくり回して遊んでいるようにしか感じられなくて、結論として「ほら安い」って言われても、なんにも嬉しいと感じなかった。もし金額に圧倒的な差がなければ、安くて複雑なほうよりも、高くてもシンプルなほうを僕は選ぶ。

 きっと表示の問題にとどまらず商品構成などの根本的なリセットがない限り改善することのないこれら通信系商品の価格表示はしょうがないとして、せめて日頃の目に見え手に取れるブツを買うところの、値札の表示ぐらいはバラけず統一しておいてくれまいかと思う。このたびの「消費税」表示へのケアの話だ。これまでしばらくの間、少なくとも僕がコピーライターになってからは原則気にしなくてよかった件が、変わってしまう。

 まあ、総額表示がルール化されたのだって消費税の歴史からすればわりかし最近のことであって、僕は総額表示が義務づけられたとき、そんなもの要らないだろう、だって消費税上がったときに大変だよ(ほらみろ!)ってずっと思っていた。だってそれまではみんな、税抜か税込かをちゃんと見て、税抜だったら頭の中で103%とか105%とか、かけ算していたわけじゃないか。今回の増税に伴う総額表示の緩和、つまりは価格表示の混在だって、以前のように戻るだけといわれてしまえばそうなのだ。

 しかし、すっかり総額表示に甘やかされきった僕らは、きっと頭の中のかけ算力が衰えている。しかも8%だ。九九的に5の段よりも面倒だ。7%じゃなくて本当によかったと思う。そのうえ、元になる数字が大きくなってくると、すなわち商品そのものの価格が高いと、数%の差でもかなり大きな話になってくるわけで、ざっくりとした暗算で丸めたはずの端数が想像以上のダメージを財布に与えてくることもある。誤差が致死量になるときがあるのだ。そりゃ家を買いたい人は本気で駆け込むわけである。

 いち消費者からすればただただブルーなところであるが、職業柄それでいいのかどうか、複雑である。というのも、お店屋さんは多かれ少なかれ作りかえなければいけないものが出てくるわけで、広告制作稼業からすれば特需であるともいえるから。もちろん、ミスを犯してしまいやすいトラップであるともいえるのでそこは注意が必要だ。また、ただ一律に消費税分かければいいかっていうと、中には非課税のものが混じっていたりして……。ああ、うん、やっぱブルーですわ。

 ほんとうは「何々に対して、いくらいくら。」というシンプルな構図がほしいなあ。そんなプリミティブな経済を望むなんて、途方もないことなんだろうか。無理ならせめて、上っ面の表現でもいいから。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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