#9 シール

2013.11.07

 ビックリマンシールを貼ったことがない。あんなにたくさん持っていたのに。ダブりもたくさんあったのに。どうしても、どうしてももったいなくて貼れなかった。せっかく集めた天使と悪魔とお守りたち。なんどもなんとか買ってもらって、交換し合って(ばくって)、ようやく揃えたヘッド(キラ)たち。そんな大事なシールを貼るわけがない。だって貼ってしまったら取り返しがつかないではないか。

 まあ、ビックリマンシールはそのコレクション的な性質上やや特殊かもしれないが、僕はとにかくシールが貼れない小学生だったのである。もっともっと幼かった頃は、そんなこと考えずに無邪気にシールを貼れたのだ。当時なにを考えていたんだか、きっとなにも考えていなかったんだろう、幼児のご多分にもれず家のあちこちにシールを貼っていたはずだ。今も実家の部屋にある本棚には剥がしきれなかったシールの白く汚らしい跡が残っている。

 いま思えば、そのシールの跡がさらに僕を、シールが貼れない人間にしていたのかもしれない。成長するにつれ、なんだか幼稚なシールがべたべたと貼られている部屋の中の家具に我慢できなくなった鈴木少年は、衝動的に性急にシールを剥がそうと試み、剥がすための液があるということをまだ把握していない無知と、生来の手先の不器用さで、きれいに剥がすことができなかった。あのベタベタした白い剥がし跡。そうなってしまった以上、もはや為す術のないあれ。こすって裏目。そして僕は貼れなくなった。

 そんな僕も大人になり、徐々に心境の変化が訪れつつある。「一度きりの人生」を意識し始めているということだろうか、「使わずに終わらせるくらいなら使ったほうがいい」というマインドが心の内に起こっているのだ。死蔵するくらいなら使って然るべきというアティテュードである。シールは貼るものだ。貼らないシールはただの紙だ。シールとしての生をまっとうできないでどうする!

 それでもなお、シール自体がもったいないという気持ちをだいぶ克服した今でも、シールが苦手だ。貼るとなったとしても貼るのが苦手だ。

 貼るならバシッと貼りたい。初期衝動にまかせてナチュラルに貼りたい。多少斜めになってたり、いやむしろ、多少斜めになってるぐらいでいい。そんな細かいことは気にしませんからねっていう体で貼るのがいいのだ。そして、それが僕には難しい。わざとらしさが出ちゃったら、なんて意識しちゃったらもうだめだ。たいていは接着面を露出して貼る直前に手が止まる。作為の奴隷である。無造作ヘアを無造作につくるのが難しいのと同じだ。躊躇がいちばんよろしくない。一瞬でもためらったら最後、かといって引くに引けずに、毒にも薬にもなりやしない中途半端な角度で不時着する始末。

 斜めはあかん。ではどうするか。作為から自由になるにはルールだ。ルールに従うことによって、ルールに従っているように見えることによって、その表現は僕のものでありながら、僕のものでなくなる。つまりは、真っ直ぐ貼ることだ。しかしながら残念ながら、真っ直ぐ貼りたくても、その技量が僕にはない。手先が不器用なこともあるが、不器用であるということが僕の自信を失わせ、さらに手元を狂わせる。真っ直ぐ貼りたかったんだけどだめでした、という中途半端な角度で不時着する始末。

 本当は貼りたいのだ、僕も。バシイッ! と貼ったりたいのである。シール、あるいはステッカーと呼ばれるあれを。好きなバンドや、好きな企業ロゴや、あるいは別に好きでもないけど何かかっちょいいようなやつを。一見てきとう、あるいは都度都度の気分で重ね貼りされている感じ、それがうっかり絶妙にかっちょいいバランスになってる感じで、スーツケースがベタベタのコテコテになっているような、ああいうのがやりたいのだ。僕は、自信がないのである。一発で決めるべきところを一発で決める自信が。だから今のところ僕のマックブックエアーはキレイなままだ。何かやりたくて、なのに何もやれなくて、そのまま歳を取っていくのだ。

 自分流のカスタマイズへの憧れとめんどくささが僕の中に共存している。既製品の利用という意味で、ビジュアルを生み出せない僕のような人間でもできるハードルの低さをシールは持っている。同時に、その選択から張り方までにおいて、やはり貼る本人のセンスというものはあらわれるものであって、そこで恥をかきたくないというような見栄が邪魔をする。本当はきっと子どもの頃のように、好きなの貼りゃあいいだけなのにね。

 小学生の頃の僕に、そのダブってる悪魔シールをそこらじゅうに貼ってしまえと叱ってやりたい。「後生大事に『魔タン鬼』十枚以上持っててどうするんだ」と叱り、やさしく諭して、抱きしめてやりたいのだ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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