#6 王冠

2013.10.17

 大人になって随分経つのだが最近、ビール瓶のフタ、いわゆる王冠を集めている。

 以前からビールは好きだったが、平日の晩酌のスタメンをハイボールあるいは焼酎にチェンジしてからは、ビールは休日の酒となった。で、だったらせっかくなんだから、なんでもいいってわけじゃない、いろいろ飲んでみたいじゃないの、小市民のささやかな贅沢だよと思って、第一第二第三と新しいのが出るたびにあれこれ買ってみて飲んでみて、たまたまイギリスのバスペールエールを、試しにグラスに注いでみたらこれがうまいのなんのって。違いのわからない男なりに、色も香りも楽しめる、というのは、なんとも素敵なビール体験だったわけで、以来、虜なのである。

 たまたまは続くもので、近年ドイツビールに関連するお仕事に携わらせていただいている。それもあって、スーパーの酒売場や東急ハンズ、そして輸入食材屋さんなどでついつい輸入ビールの棚に目がいってしまう。すべてドイツビールというわけではないのだが、いろいろ。おしなべて高い価格に腰が引けつつ、できるだけ安いもののなかから選んだり、時折やたら気が大きくなり、えいやと買ってみたり。銘柄などにたいした詳しくなったわけでもないし、味の違いがわかるかといえば相変わらず正直まことに疑わしいのだが、まあ、休日の酒だし、いっか、なんて気持ちで楽しんでいる。そして、それらは瓶がほとんどである。

 海外モノということで、なんせラベルが見慣れずかっちょよい。ただ、瓶をそのまま置いておいてもかさばるし、ラベルを丁寧に剥がして保存しておくのも何度か試みてみたが手先が不器用でうまくいかない。だいいち飲んでるときにめんどくさい。とはいえ貧乏性ビール飲みとしては、この安くはない、そしてかっちょよいデザインの、かっちょよい名前のビールを飲んだ証というか、何かしら残しておきたくて。で、王冠に落ち着いた。台所に置いてあるプラスチックコップに王冠をコロンと投げ入れるだけ、という手軽さ。そして見返しはしない。

 これを「集めている」と呼んでいいのかやや疑問である。「捨てない」というほうが合っている。単に自宅で瓶のビールを飲んだとき、その王冠を捨てずにとっておいている、というだけのことだ。

 小学生の頃、王冠を集めるのが流行ったことがあった。どうしてそうなったかは憶えていないが、まあ、男子のやることである。黒ラベルの「☆」がかっちょよくて好きだった。まさしく王冠と呼ぶにふさわしいかっちょよさ。男子は星が大好きだ。あれを筆頭にとにかく王冠がほしくてほしくて、ダブりなんかも気にせずに、ジップロック的なビニール袋にごっちゃり集めていた。バリエーションもどうでもよく、ただ数のみに執着していたような。まあまあずっしりとした重さと、ギザギザのところがビニール袋ごしでも若干痛い、そんな量感をもって脳裏に浮かぶのであるが、それだけの量を当時どうやって集めていたのか記憶がかなりすり切れてしまっている。

 というのも、父は僕が子どもの頃からずーっとウィスキーのソーダ割り。母はほとんど飲まないし、たまに飲んでも缶ビール。だから家では集まらない。うっすら、親戚の飲み会なのか父の職場の飲み会なのか、はたまた法事か、長い座卓の置かれたようなどっかの飲み屋の大広間で、ビールからジュースからたくさんの王冠をいっぱいもらってウッハウハ、というシーンがあった気がするのだけれど、あれは何だったんだろう。いっぽう、同じクラスのKくんのお母さんは飲み屋さんのママで、当然お店ではビール瓶がいっぱい開いちゃうわけで、それはそれはたくさん王冠を持っていて、すごく羨ましかったのをうっすら憶えている。きっとKくんにねだって、たくさん貰っていたのだろうと思う。教室で戴冠である。

 あの頃、たぶん一年近く、王冠集めに夢中だった。なんでやめちゃったんだっけな。流行が去って行ったといってしまえばそうなんだけど、まあ、でもそれは王冠に限らず、僕にとっての蒐集とはこれまで常にこんなもんだった、半端に集めて→飽きて→忘れて→捨てられないまま、ということを繰り返してきたともいえる。きっと蒐集欲はそれほど強くないけれど「集めたい」よりも「捨てられない」という方向性で僕は物への執着が強い。

 なので僕はもう、蒐集を目的として新たに物は買わない。なにか別の目的の副産物といったおもむきの、王冠くらいがちょうどいい。そして、子どもの頃とは違って、他人の開けた瓶の王冠はどうでもいい。廃物利用のライフログ的コレクション。できるだけ場所を取らず、ときどき遠目に眺めてにやにやできるもの。それでいい。そういえばミンティアの空き容器を捨てずにとっておいたこともあった。あれも麻雀杯のようで壮観だったけど、捨てたときも気持ちよかった。王冠もそうなるだろうか。いつ捨てようか。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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